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推理小説

と言おうか、探偵小説と言おうか、とにかく『本陣殺人事件』は日本初の本格推理小説とされている。読んでおかなければならない本のうちのひとつであるが、これまで機会がなかった。サラッとは読めない、と前回書いたけれど意外と二時間ほどでスラスラ読めた。
日本家屋はふすまや障子などプライバシー保守には向かない構造ゆえ、密室殺人のトリックには適さないとされていた。それが横溝正史によって立派に成立することが証明されたこと、金田一耕助が初登場したこと、の二点だけでも日本推理小説史に残る作品。らしい。現場を新婚初夜の離れにしたこと、また、積もった雪に足跡がなかった設定など、日本家屋での密室性を高める独自の工夫が見られる。

決して名文家ではない。同一の修飾語をごく近い文脈で使用したりするあたり、そういったことには無頓着なのかも知れない。それでもこういう類いの小説では明快で整然とした描写が大切であり、そこに関して文句は無い。様々な推理小説の定石(といっても私はさっぱり詳しくない)が盛り込まれており、なるほどこれが本格推理小説というものかと合点がいった。

こういった類いの作品で重要なのは執筆材料をどういった順番で読者に提示してゆくか、つまり伏線をどう張るかということで、あんまり後出しでも後付け理由の誹りを免れないし、早過ぎればもちろん色々バレてしまう。横溝正史はその構成が非常に巧い。

唯一疑問なのは、犯行時にトリックに使われた琴糸が「ピンピンピン!」と鳴ったのが聴こえた、という記述。書かれた通りの情景をイメージすると、張りつめた琴糸は相当の長さになっているはずで、その長さで果たして「ピンピンピン!」といったピッチで聴こえるのだろうか。些細な齟齬だけれど、逆にその程度のことが気になってしまうくらい出来の良い作品だということだ。

それにしても推理小説って、土地や建物の構造を文章で把握しなければならないわけで、これがいつも難儀だ。「○○の西には川が流れ云々」と言われてもさっぱりイメージが湧かないのだが、これをちゃんと把握しないと後々さらに判らなくなるので頑張って想像しなければならない。

by maestro_k | 2009-03-25 01:01 | diary